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「チャンディ・チェト」
( Candi Ceto)
なんだかここのところ、ずっと家にこもって仕事することが多かったので、「ジョグジャ・サーフィン」の創刊号が出たら、一度どこかへ遠出しようと思っていた。生みの苦しみでなんとか印刷に回した後、ずーっと前から気になっていたソロ東部の遺跡を見に行くことにした。
今はなんてったって自動車がある。ジョグジャから約3時間のドライブも、4輪だったら充分に楽しめる。たまには旅行者気分で一泊して、もともと好きな遺跡巡りでもして気分転換だ。私が今住んでいるジョグジャカルタ周辺は遺跡王国。ヒンドゥー、仏教がここへ流れてきて多くの世界的に貴重な遺跡を残している。地図を見ていても、ジョグジャカルタとソロを結ぶ一帯は遺跡マークが集中している。
1月の2週目の週末、私は早朝からジョグジャを出発した。東へひたすら走ると、30分後にはプランバナン遺跡に着く、ここからまた東に向かえばもうソロ、プガワン・ソロ」の歌で有名な古都だ。ここにもまだ王宮が残っていて、ジョグジャの現役王とも親類関係にある。私の目指す遺跡はまだここから2時間ほどラウ山(3265m)に向かって上らなければならない。そこには2つの有名なチャンディ(ヒンドゥー寺院)がある。
このうちの一つが私がバリで暮している頃からとても気になっていたチャンディ・セト。バリで長年暮してきて、ヒンドゥーの建築物などはだいたい見てきたつもりだが、このチャンディはそれらとはまったく違った雰囲気を持っている。バリで開花したヒンドゥー美術は装飾がどこかしこに施されたものだけれど、ラウ山麓にあるこのチャンディはまるで中米のマヤ文明のような、幾何的デザインが地面に施されているのだ。7〜8世紀の遺跡といわれるボロブドゥールやプランバナン遺跡(皆さんがジョグジャに遊びに来たら、すぐに行ける距離にあるのがこの2つの世界遺産)と比べると、このチャンディは創建15世紀とまだ若い。ヒンドゥー教が入る前には自然信仰(アニミズム)が主流だったこの土地で、土着信仰がヒンドゥーとミックスされた結果なのだろうが、それにしても、いったいこんなデザインがどうやって生まれてきたのかとても不思議だ。

写真でしか知らなかったこのチャンディを実際に見ることが出来る。ソロの街を越し、車はどんどんと田舎に入っていく。山道は想像していた以上に上り坂がキツイ。神聖な場所というのはきまって険しい場所にある。こんな道を通り、建築材を運んだ古の人々の信仰心を想像して一人感動が沸く。ようやくチャンディらしきものが見えた頃には車はほとんど45度の傾斜を上っているような感覚だった。ここまでの10数分はずっと一速で走ってきた。
車を降り、神聖なチャンディを見上げながら深呼吸。86年製の中古のスターレットには大変な道のりだっただろう。
山の空気は冷たく凛としている。古の人はここまでの急な坂を歩き、神聖なこの場に入っていったのだろう。今でも交通の便が非常に悪いこの地は、訪れる人も少ないという。私が着いたときにも、敷地には人っ子一人いなかった。山の空気は冷たい。小雨のせいもあって私は長袖のパーカーをはおりヒンドゥーの割れ門をくぐり敷地内に入った。ここで今来た道を振り返ると、数メートル先はもう霧に隠れて何も見えない。異界に入り込んだような錯覚を覚える。
「かねてから来たかった地に今、私は来た」
チャンディに向かって歩き出すと、すぐそこに写真で見ていたあのマヤ文明のような敷石が目に入った。 なんとも不思議。古代壁画のようでもあるこの石畳には、よく見るとコウモリ、象、ネズミなどがモチーフになっている。そしてその一番手前には男根が祀られている。ヒンドゥーでは男根、女性の性器を繁栄の象徴として祭るのは一般的なのでこれには驚かないが、鳥のような大きな石畳、シンプルなデザインにはしばし見とれてしまう。おそらく、この石畳のある空間は、バリのヒンドゥー寺院と対比させれば一番外の拝所ということになる。より神聖な場所(本殿)はもっと奥にあり、それぞれのゾーンを目指すごとに山に向かって上っていく。どんどんと我々が神のいる場所に近づいていくような感覚になる。

一番上(本殿)まで上り、さっき歩いてきた場所を見下ろしてみた。しとしと降る雨の中に浮かぶ鳥の形の石畳には、古の人々が単純な方法で神と交信しようと試みた跡が明らかに残っているように思えた。このラウ山の麓の人里離れた場所で、人々は自然と神とバランスよく暮していたのだろう。神聖でピンとはった冷たい空気に包まれながら、私は頭を垂れて本殿を見つめ、「縁あってこの場に呼んでくださってありがとう」と心でつぶやき、チャンディを後にした。

チャンディに向かう上り坂は茶畑が続く。
まるでお茶の絨毯のよう。思わず車を留め、
写真を撮った。
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もう一つのチャンディ、スク寺院。ここまでは長いペアピンカーブが続く。着いたとたんマッサージ師を探したいと思った。
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