「スルタンの頼み事」
( Permintaan dari Sultan )


私が今、ジョグジャカルタでビザの問題に悩まされずにいられるのは、私の身分のおかげ。普通、インドネシアで働く外国人はワーキング・ビザを取り、一ヶ月に120US$の税金を納める義務を負わされる。ってったって、インドネシア雇用の場合、一ヶ月に120US$に給料が達しないことがほとんど。そんなの払っていたら逆に赤字になる。ところが、私は運良くジョグジャカルタの州知事兼、現在も存在するインドネシア唯一の王(スリ・スルタン)の個人秘書の後ろ盾のおかげで、「PEKERJA SOSIAL(プクルジャ・ソシアル)」つまりジョグジャカルタの街のためのボランティアのような身分をもらい、王妃の主宰する工芸協会のアドバイザーとして、必要なときに手伝うことを約束している。

先月末、一年間のビザの更新の際に、この王様の個人秘書から延長手続きのためのサインをもらった。そのときに、
「また今年もお手伝いしますから、なんでも言ってくださいね」
といったばかりに、
「それならば・・・」
と話は始まった。

これはもともと私が王様に出した企画でもあったのだが、ジョグジャの発行物があまりにも田舎くさいので、もっとちゃんと今の感覚でデザインして、せっかく私がいるのだから、日本語のものを発行しましょう!という企画。つまりは「ぴあ」のようなものを、フリーでツーリストにあげちゃいましょう!というもの。一年前に出した企画書が、今になって動き始めたのだ。 とはいってもジョグジャカルタ政府には余裕がない、私は半ボランティアでたった一人、喫茶店やホテル、バーを取材し、メニューを撮影し、記事にし、ページレイアウトも全部やった。

考えてみたら、私はグラフィックデザイン専攻だった。しかし当時はPC使ってデザインなんてしてない。すべてがマニュアル。インドネシアで一般的に使われるデザインソフトをインストールはしたものの、なにをどうしたら曲線が描けるのかもわからない。けれど王様はできるだけ早く創刊号を出したいと仰せられる。印刷屋に相談するものの、ちょうどこの時期はイスラムの断食明けにかかり、10日の休業。仕方なく、自分の思うデザインをすべて手書きし、ソフトを使いこなせる友人を探しては個人レッスンを頼み、ようやく今、すべての原稿が印刷屋で最終チェックに入った。   

Jogja Surfing
創刊号の表紙には、ちゃっかりと自分の壁画作品を使っている。

このガイドブックは創刊されたら空港、ホテル、レストランなどに無料で配布され、日本人ツーリストに渡る。内容は衣食住のインフォメーション、ジョグジャの歴史、近場の遺跡紹介など。予算は思い切り少ないけれど、私はこの仕事がとても気に入っている。普通、「金を出したら口も出す」スポンサーが多い中、王様の個人秘書は違う。
「ミドリ氏はアーティストですから、全面的に彼女のセンスに任せるのが一番です」
と公のミーティングで話してくれたので、内容もデザインも、完璧なる私の好みで進められた。人に信用されるというのはやはり気持ちがいいし、逆に責任感もヤル気も出るものだ。「編集長:廣田緑、発行人:スルタンの個人秘書&インドネシア観光文化庁ジョグジャカルタ特別区長官」で、ジョグジャカルタの公式ガイドブックとなる「JOGJA SURFING(ジョグジャ・サーフィン)」は、2003年1月初旬に創刊される予定だ。


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