「霊降ろし」
( Kesurupan )

こうした話以外に、ジョグジャで暮らす友人からこんな話も聞いた。彼女は西部ジャワ出身で、遠い親類にクタで働いている身内がいたらしい。テロ事件を聞き、すぐに親類の青年に連絡を取ったのだけれど、彼の携帯電話がまったく通じない。不安になった家族は、まずはその場のオラン・ピンタル(賢人の意味、日本でいうところのイタコのようなもの)の家を訪ね、青年の様子をうかがう事にしたのだった。不安げな家族の前で、トランス状態に入り、そのまま青年の魂を降ろしたこのイタコが口を開いた。「父さん、母さん、僕はもうこの世にはいません・・・」イタコは(青年はといったほうが正しいだろうか)まだ続ける。「今回のテロに巻き込まれたんです。でもね、僕を探す必要はありませんよ。近くにいたので、身体を探しようにも、それは不可能です。僕は大丈夫。供養してください。わざわざあんな遠い現場までなど、行く必要はありません・・・」 

こんな言葉を聞いた家族の心境はどんなだっただろう。私はこの青年も、家族も、直接は知らない。けれど、この話をしてくれた私の友人によれば、この家族はこれで息子の捜索をあきらめ、今は遺体なしでの葬儀の方法を考えているところだという。日本ではしっくりこない話かもしれないけれど、今回のテロがいまだに呪術や儀礼が生活に深く浸透しているインドネシアで起こっている事、実際に相当数の遺体が身元確認不可能な状態になっている事を考えると、こうした形で行方不明になっている身内の確認をしようとする人がいるのも納得がいく。どんな形であろうとも、被害にあった人々の魂が一日も早く安らげるよう、祈るばかりだ。バリ暮らしの長かった私は、ジョグジャ在住のバリ人作家のグループから声をかけられ、近々オークションに作品を出品する予定だ。集められたバリ人作家の作品をオークションし、その収益の全額をクタでの被害者に送るという計画が進んでいる。


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