「インドネシア大統領選挙」
( Pemilu
Indonesia)
日本国籍の私が、「ヒロタミドリ」として、けれどもなぜか出生地が「アチェ(ACEH)」として、インドネシアの総選挙の投票者証明書を得た話は以前に書いた。
今年の総選挙は、6月の投票日に党を選んだ後、国民が自ら大統領を選ぶという、インドネシア共和国の歴史始まって以来初めての選挙方法を採用している。自分がヒイキの党があろうとも、大統領は別。大統領は党の色を押し出さず、単品(?)の「大統領」として国民の支持を得るのだ。大統領は副大統領と「セット」で立候補し、投票者はセットものの、大統領のみを指定してもよし、1セットで大統領と副大統領両者を指定してもよし。無効になるケースは、セットAの大統領を選び、セットBの副大統領と組ませる。これはダメ。我々が勝手にセットを崩すことはできない。
こうして今年の大統領選に立候補したのは5セット。現大統領のメガワティ・スカルノプトゥリも再出馬。女性は5セット中、彼女一人だ。選挙活動が解禁になった頃から、TVではよく候補者の選挙活動を流していた。大企業のCMなみの出来である。
もともと、インドネシアの政治活動というもの自体が「国民の祭典」的要素をもっているので、ここでは別に誰も疑問に思うことはないのかもしれないが、選挙活動で候補者が歌っちゃうってのは、なんか見ていて気持ちが悪い。そりゃあ日本だって、暮れになれば政界の人間が角界の人々とデュエット、なんて特別番組があったりもするが、あれは政治を離れての番組、あるいは出演しているのがアイドル要素のある政治家だ。
ところがインドネシアでは、選挙演説で真面目にインドネシアの未来について、女性の労働条件改善や国の負債を早々になくすなんて話をしておきながら、閉めには候補者の1曲・・・ってのは、どーもスッキリしない。それも、こういう時に限って、一般大衆に好まれているダンドゥットとくる。見てる側もそれこそ、
「おー!XX先生のお歌いになるダンドゥット!踊らにゃ損ソン!」
ってな具合に押し合いへし合いで踊っている。まるで、インドネシアで大統領になるには、どれだけ多くの民衆を誘って躍らせることができるかを競っているようにも見える。
TVでの選挙活動がこれまたスゴイ。最初に見て唖然としたのは、候補者の一人であるSYBの宣伝。CMはこう始まる。 都会のあるオープンカフェ。今どきの格好をした男女の若者が5−6人座ってSBYのポスターを手にして見ている。そこへ仲間の一人であろう青年がカッコよく登場。
仲間:「オーッス!お前今日も決まってんじゃン!」
男:「へへへ・・・、ところでそれ何?(ポスターを指差す)」
仲間の中の女:「SBYよ〜、大統領候補の」
男:「なんでSBYなんだよ?」
女:「だってぇ〜、SBYが一番ナウいじゃん!
(この言葉、日本ではもう死語だが、インドネシア語でもこういう意味合いの流行語があり、CMでもそれを使っている)」
男:「でも、俺、この前選んだ政党は別だぜ」
別の女:「政党は別でもイイのよ!大事なことは、SBYが大統領ってこと!」
そこでSBYと、セットになっている副大統領候補の顔のアップ・・・
それ以外の候補者のものは、やたら本人が役者ぶりを発揮して、農村で農夫と一緒に畑を耕してみたり、貧困に憂う老婆のもとへ行って寄り添ってみたり、何かの窓口で順番を守らずに割り込もうとしている青年をなだめたりなんかしている。実際に大統領になった者にそんなことできるわけないじゃん、と思うのだけれど、「民の痛みがわかり、民とともに働く!」みたいなものを売りにしているようだ。
こんなTVでのCMを見ていると、
「今回の選挙方法で、儲かったのはCM製作会社だな・・・」
と思うのは私だけだろうか?
こうして7月5日、無事に大統領選挙は終わった。今回私はジョグジャカルタ芸術祭なるものの展覧会の作品搬入日と重なったこともあり、投票には参加しなかった。さすがに先回の党選びの選挙後、TVのニュースでも投票権のない外国人に投票カードが発行され、それが裏でRp40,000〜50,000(約500〜620円)で売り買いされていたと流れていたので、先回は何も気にかけずに私の投票を見ていた人たちだって、何か思うかもしれない。面倒を避けるためにも今回はパスした。
のんびりペースのインドネシアでは、今もゆったりゆったりと開票が進んでいる。それにしても、長期に渡る選挙活動、TVで流す広告の撮影、キャンペーン中に各地の支持者を前に歌うための歌の練習、そんなこんなで1年間を選挙に使ってしまっているけれど、今年のインドネシアの国政はいったい大丈夫なんだろうか?と、ついついよそ者の私が心配してしまうじゃないか。
しかし、今回の選挙方法はそれなりに国民は喜んでいるらしい。確かに今までの不透明でほぼ独占的な政治方法から比べれば、いかにも「国民参加の選挙」といった感がある。特に大統領を自分たちの投票で決められるというのは、過去に何百年とオランダ植民地下にあり、ようやく独立できたと思えばスハルトの封建政治の下で何も自由がないままに何十年も過ごし、ようやくスハルト帝国が崩壊して少しずつ変化しつつある、デモクラシーの赤ん坊のようなこの国で、直接投票で大統領が決定するというのはかなり画期的なことなのだろう。
それにしても、今回の大統領選挙はどうやらこのままでは終わらなそうなのである。最新の開票結果では、第1位のSBY(あんな安直な政治活動をしておきながら、結構国民の支持を得ているのだった、このおじさん)が過半数を得る可能性は薄いのだ。最大得票者の得票率が50%に満たない場合は、第2位との間で決戦となる。これがまた先の話で9月。今の開票状況からすると、現大統領であるメガワテがなんとか第2位の座を守れそうなので、9月には「SBY対メガワティ」での決選投票が行われることになる。このジョグジャカルタ・タイムズが皆さんの手元に届く頃には、日本のニュースでもチラッとはインドネシア共和国大統領選挙のニュースが入るかもしれない。ぜひ、この「ナウいおじさん」のイメージで1位に躍り出たSBYの顔(およそ「ナウい」容姿からはかけ離れている)をチェックしてもらいたい。

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