ニルワナ・ゴルフ&スパ」
(Nirwana Golf & Spa)

  昨年の12月ぶりにバリの家族のもとに帰省する機会を得た。バリで暮らすようになってから、犬山リトルワールドの敷地内にあるバリ島貴族の家のコーディネートを任せてもらえることになり、毎年一度、バリの家屋を飾る金装飾の布の発注と発送を仕事にしている。今回は電話で注文しておいた飾り布のクオリティチェック、引き取りと犬山への発送という仕事のために4日間をバリで過ごせるようにスケジュールを立てたのだった。
 バリには親しい日本人の友人が2人だけいる。一人は私がバリを制作の地と決めた1992年にすでにバリの伝統音楽を学びにインドネシア国費留学生としてバリに来て、そのままバリ太鼓クンダンの師匠と結婚した関西出身の女性Tさん。今では一人娘が小学校高学年。そしてもう一人は、私がバリの田んぼの真ん中に小さな城を構え、猿のスギトと暮らしていた時代の隣人(隣といっても間に田んぼ、空き地などがあるのでずいぶん離れてはいたが)であるN翁(本当は翁という年齢ではないが、敬意を込めて私は本人にも翁をつけて呼んでいる)。バリに戻ったらこの2人とは会うことにしている。

 リトルワールドの仕事を片付けて、最初の夜にN翁の家に挨拶に行き、そのまま翁の手料理をご馳走になる。翁はかなりの食通、昔から翁の手料理やお茶一杯にも感動してきた私は、久々の翁の料理に舌鼓をうち、まだ完成間もない翁邸(私がバリの家を引き払うより前に、翁は借家の延長ができずに別の場所で家を借り、最近また新しい場に移ったところ)を満喫させてもらった。
 翌日、N翁から電話があった。
「廣田さん、Tさんがホテルのタダ券くれるんだって。タナロットの5つ星だよ。せっかくだしさー、廣田さんとなら気兼ねもいらないし、湯舟つかっていきなさいよ。朝ごはんでジャワじゃ味わえない美味しいパンも食べていけるじゃない」
 最近は仕事が上り調子の翁ではあるが、お互い田んぼに暮らしていた頃はバリで一番経済的に余裕のない日本人2人組を自称していた我々、今でも湯舟に憧れてしまう。私は即答でOKした。

 それにしてもなんとも運がいい。わずか4日のバリ滞在で、Tさんが日本人会の新年会の賞品で当たったタダ券をずーーーっと持っていたのに、有効期限ギリギリになって自分では使えないことがわかり、N翁にあげようとしたその時に、ちょうど私がいたのだった。タイミングがよすぎる。さらに私をタダ券満喫のパートナーとして指名してくれた翁にも感謝。
 ロマンチックな関係とはまったく縁のない翁と私は、それぞれの予定もあるので、当日は現地集合、目指すは湯舟!朝ごはん食べたら仕事もあるし、とっととUbudへ戻りましょうといったサバサバとしたスケジュールを立て、私が先回りして夕方5時半にチェック・イン。

ニルワナホテル

干潮時にのみ歩いていくことのできるタナロット寺院は
ジャワから渡ってきたダンヒャン・ニラルタ僧によって
16世紀に建立された。
夕陽に照らされた寺院の姿は本当に神々しい。
ホテルからこのままの景色が拝める。

 このホテル、Nirwana Golf & Spaはバリ島ガイドブックにも必ず載っている、タナ・ロットにある1999年OPENのファイブスター。ここは日本の観光客がたいていは行く夕陽のスポットで、バリ・ヒンドゥー教徒にとっては非常に重要な意味を持つ神聖なタナ・ロット寺院(写真上)がある。建設当時は多くの教徒から神聖な場所にリゾートとは何ごとぞ、と反対に合いながらも結局は完成、今も敷地内には数十箇所に祠があり、僧侶がお供えを置くために毎日回っているという。

 このホテルでの一泊を、めったに味わえないツーリスト、それもかなり高級な観光を目指すツーリストの気分で過ごすぞ!と夢描いてやってきた私は、チェック・インを終え、開かれたロビーのテラスからの景色を見て驚いた。眼下にタナロット寺院が見えるではないか!

 おそらく、バリの文化や習慣をまったく知らない一旅行者が見たのなら、エキゾチックなヒンドゥーの寺院を海岸に見下ろし、南国の地を訪れた感動を味わうのだろう。けれどなまじっかバリ文化も宗教も知ってしまっている私にとって、ヒンドゥーの神々が宿る神聖な場よりも自分が高い位置に立っているというのはなんだか居心地が悪い。かぶれているつもりなどけしてないが、10年近くをヒンドゥー教徒と過ごしてきたのだからやむをえない。このホテル建設が多くのバリ人の反対にあったのもうなづける。

ニルワナホテル
ニルワナ・リゾート、ホテル内にあるゴルフコース。なんでも世界的に有名な
ヨーロッパの建築家によって作られているらしい。私が泊まった翌日、
真っ黒に日焼けした日本人のオッチャンがビュッフェで朝食をとっていた。

 午後7時。超過密スケジュールで、一分でも時間の惜しいはずの翁は、それでも湯舟とファイブスターホテル体験のためにわざわざ1時間半をかけてUbudから駆けつけた。部屋に入るなり、
「廣田さん、僕まずはマッサージするから。あなたどうする?」
 完璧に自由行動である。翁がSpaでマッサージをしている間に、私は思う存分に部屋の湯舟を満喫し、テラスで波の音に耳を傾けた。
 タダ券でファイブスターに泊まったものの、このレベルのホテルでは夕飯なんて高すぎてとんでもない。屋台のご飯をテイクアウトしてくるべきだった・・と本気で思っている私に、最近調子のイイ翁が言う。
「今日は本当にイイよ、廣田さん。最近ちょっとイイ感じなんだから僕」
 昔は同じ田んぼの月を眺めた隣人が、イイ仕事で生活にも潤いが出たというのは羨ましくもあるが、心から嬉しいと思う。今回は遠慮なく甘えさせてもらうことにして、潮の香るカフェテラスで翁とのディナーを楽しませてもらった。いつかは私が翁孝行する日が来ることを祈りながら。
 半年ぶりのバリで、予想もせずに起こった楽しいハプニングだった。
 TさんにもN翁にも感謝。持つべきものは親友である。

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