ジョグジャカルタタイムズ

「日本ASEAN友好年」
( Tahun Persahabatan Jepang-ASEAN)

 8月のある日、届いたメールの中に日本人の名前があった。清水彩子さん、以前ジョグジャの日本人を集めてジャカルタの大使館から出張サービスを行ったときに知り合った大使館員の一人だ。まだ若い彼女はインドネシア語堪能なくせに、まだ語学研修としてジョグジャのガジャマダ大学に在籍している。それが大使館の決まりなのだから仕方ない。彼女はメールで、
「突然ですが、友人の結婚のお祝いとしてミドリさんの作品を買わせていただくことができますか?」
と問い合わせてきた。

 ちょうどその少し前、私は小さな額に入った護符絵シリーズを個展で展示していた。彼女はそれを見ていて、私を思い出してくれたらしい。その数日後、私のスタジオに案内すると、20点ほどあるシリーズ絵から彼女はバリ・ヒンドゥーの世界観を描いた一枚を選んだ。
「実は、GIGIのギタリストのブジャナが結婚するんです。式に招待されたのですが、出席できないので、緑さんの絵をお祝いに渡したいと思いまして・・・」

えっ?!
GIGIというのはインドネシアの有名バンドで日本でもコンサートの経験がある。このギタリストであるデワ・ブジャナはバリ人、バリ人にとって彼の存在は一つの誇りでもあるくらいだ。なんと、このブジャナの結婚祝に私の作品が贈られるのだ。作品が売れるという喜びに加え、その行き先に私はとんでもない幸せを覚えた。私の好きなバンドのギタリストの手に渡る(ゴメンなさい、本当はボーカリストの方が好きです・・・)、ましてや、バリで暮らしていた時に、バリ・ヒンドゥー哲学に魅せられて制作した作品が、バリ人のもとに行く。私はなんとも言えず満足だった。手元を離れる瞬間は娘を嫁に出すような淋しさもあったけれど、行き先がはっきりしているのだから安心。満月の夜に、私の作品は清水さんの手を通じてブジャナ氏のもとに嫁いでいった。

 この清水さんとの出会いは単なる作品の売買では終わらなかった。この方、私の持っていた大使館員のイメージを大きく覆すキャラクター、髪を赤く染め、サイケな色彩のノースリーブに真っ赤なマニキュアといういでたち。身の上を話さなかったら、街のイケイケ姉ちゃん風なのだ。こういう人材が外務省で働いているとはなんとも嬉しい。作品をきっかけに、彼女から出た話は、日本ASEAN友好年にちなんだイベントの話だった。
「日本といえば、盆踊りに着物、太鼓なんです。もう、そんな時代は終わってるというのに・・・。私は今の世代に、ドラえもんやセーラームーン、アニメーションやJ−POPの今の日本を紹介したいんです」

ヒロタミドリ作品

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清水さんの選んだ護符絵。
「Rwo Bhineda(ルオ・ビネダ)」というバリ・ヒンドゥー教の哲学、
「明と暗、左と右、朝と夜、善と悪、すべては両極を持って存在する」ことを現している。私も好きな作品。

スゴイ、こういう考えを持った人がいたとは。彼女はジョグジャに多くあるインディーズのバンドを選び、彼らに日本の曲を彼らなりに演奏してもらうというコンサートを企画していた。が、それだけでは日本の「現在」を紹介するに充分ではない。できれば映画、美術、ファッションも一緒に紹介したい。私は即座に彼女のアイデアに賛同、美術の分野でお手伝いすることを約束した。

 1992年にバリで暮らすと決めて以来、自分にできることは何かをずっと考えてきた。そしてジョグジャに来て多くの作家と知り合うにつれ、彼らをどうやって日本に紹介できるか、日本の美術を彼らにどう紹介できるか、日本人としてインドネシアにいる自分にしかできないことは何かを考えてきた。その一つの回答が、この企画の中にあると思ったのだ。
 今、まさに私がやるべきこと、長くインドネシアにいたからこそできることをこの展覧会の中で出し切ってみようと思った。独りよがりの作家選択にならないよう、キュレーターは私一人ではなく、日本に留学経験のあるバンドゥン工科大学の講師である友人に頼んだ。つまり二人三脚でのキュレーターだ。

 インドネシア在住の日本人作家3-4名、ジョグジャカルタ在住のインドネシア作家7-8名で構成する予定のこの展覧会は「What's In Your Pockets?」のテーマがつけられた。どんどんグローバル化の進む今の世の中で、インドネシアの若い世代にとってはドラえもんも宇多田ヒカルも自分達の文化の一つになりつつある。日本のアニメはどんどん国際化され、インドネシアの若者もそれが日本産とは知らずに受け入れている場合が少なくない。こうして得た情報、センスは、我々のポケットにそれぞれ蓄積され、新たな文化を生み出す。その中身を今、ここで一緒に出してみよう、それがテーマだ。

  大使館員である清水さんを頭に、それぞれの部門に担当がいるので、私は美術展を動かすのみ。12月7日のオープニングに向け、まずは作家の人選が先決だ。バンドゥンから来てくれるもう一人のキュレーターを待ち、今週と来週をかけて作家のスタジオを訪ね、展覧会のコンセプトに合った作家を決定する予定だ。 何事も新しいことを始めるときはワクワクするものだ。特に、私にとって今回の仕事は初体験。チームを作って一つの展覧会を作り上げるのだ。作家ではなく、キュレーターとして。この3ヶ月は作家は休業、二束のわらじは私のような不器用な人間には履ききれない。一つの仕事を丁寧にまっとうしようと思っている。これからもこの過程はジョグジャタイムズでお知らせすることにする。


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