「小川旋風」
( Topan Ogawa )

 先月号で紹介した沖縄のバスケット作家、小川京子さん。4月11日にバリの空港で再開し、ほぼ2ヶ月をジョグジャカルタで共に過ごした小川さんは、先日6月6日、後半で合流した玉城のスタジオのスタッフと共にジョグジャカルタの空港から飛び立った。

 彼女と過ごした2ヶ月間、とにかく彼女のパワーには圧倒されてばかりいた。ジョグジャカルタの街につくなり、現地アシスタントの女性と一緒に小さなオートバイで走り回って材料を探し、自分のフィーリングに合った制作場所を探し、空いた時間には日本から持ってきた本を読み、見るもの、食べるもの、会う人、触れる物に心の底から感動していた。

  小川さんがジョグジャ入りする前から私は彼女に合った宿を交通の便のいい街中で用意しておいたのだが、材料探しで郊外に出たときに見つけた海岸沿いにそびえる山のてっぺんにある竹の掘ったて小屋を見つけた彼女はここが気に入ってしまった。確かに、その環境は玉城にある彼女のスタジオの環境に近い。街から遠く、電気も通っていない山の頂上で2週間こもって展覧会の作品を作りたいという彼女の願いに、正直言って私は戸惑った。言葉もなかなか通じない外国の、それも人っ気のない山のてっぺんに来て、何か起こったら私に何ができるのか?それを考えると少々不安だった。けれどその山荘にはちゃんと管理人もいて、オーナーはブンダ画廊のディレクターとも親しいと聞き納得した。

  私には街での仕事が残っているので2週間の山ごもりにはアシスタントが付き添うことになった。アシスタントは私の家の同居人だったリカ。もともと都会出身の彼女は小川さんとは別の意味でこの山ごもりを楽しんだようだった。1週間を終えたところで、一度自分の家に戻りたいというリカと交代で私も一泊の準備をしてこの掘っ立て小屋に向かった。海岸までは町から約30分、そこから山のてっぺんまで急勾配の極細の道を30分上ると小屋に出る。

 この場の名前は「PUNCAK KHAYANGAN(プンチャッ・カヤンガン)」、「天国の頂上」とでも訳そうか。言葉どおり、澄んだ空気と精霊で満ちているかのような林、そしてそこから見下ろすインド洋、この景色はたしかに、この世のものとは思えない荘厳さと神聖さがある。私はこの「天国の頂上」の景色を味わいながら、昨年一ヶ月を過ごした玉城の空気を思い出していた。夜はランプの光の中、制作する小川さんの姿を見た。

 

山の篭り小屋

この壁もちゃんとしてない掘っ立て小屋が小川さんのお気に入りとなった「バンブーハウス」。夜にはランプの光で風の音を聞く。森の精霊達を身近に感じることができる不思議空間だった。

 

 彼女は自分が沖縄で使っているヤシ科の植物「クバ」の自生地を探し、それを編み、かねてから興味のあったロンタール椰子を材料として試したりもした。自然素材と対話するかのように向き合い、作品として採取した材料は 道具を使わず手だけで裂いたり編んだりして、どこも捨てることなく材料を100%生かしてモノ作りをする。乾燥のプロセスを誤り、編むことのできなくなった素材があると、まるで彼女は植物に罪を犯したかのように、使えなくなった材料に詫びていた。

 すべての素材を心からいとしんで愛情を持って編んでいく小川さんの仕事には、日本からは何歩も遅れているインドネシアの人々ですらもどこかに置き忘れてしまった、人間本来もっていた大切な何かを思い起こさせてくれるようだった。こんな彼女の口から「私の夢は、いつか植物と話しをすること」と聞くと、これがかっこつけた言葉ではなく、彼女の本心であることがわかる。キジムナーの故郷に暮らす彼女がそう思うのも当然のことかもしれない。

  5月16〜18日の3日間のワークショップ、そして20日から6月2日まで、無事に彼女の個展がブンダ・アート・スペースで開かれた。その間には、展覧会場であるジョグジャのブンダ画廊、西ジャワの大都市バンドゥンにある国立工科大学内のギャラリー、ジョグジャカルタの国立芸術大学の工芸科と3箇所を回ってのスライドレクチャーも行われた。彼女の仕事に対して、インドネシアの若手アーティスト達が活発に質問をし、小川さんも元気にそれらに答えてくれた。

 こうした彼女の作家としての貢献以外に、私は個人的にも非常に助けられた。この2ヶ月というもの、ほぼ毎晩をともにし、夕食をとりながらお互いにその日一日起きた事を報告しあい、時にはいっしょに喜び、反省し、感動してきた。作家として生きていく厳しさと楽しさ、精神的にも物理的にも自立することの必要と難しさ。そして人に、植物に与える愛情の意味、たくさんのことを彼女の態度、言葉から学んだ気がする。

 そんな彼女が嵐のように2ヶ月をジョグジャで過ごし、キジムナーの島に戻っていってしまったのだ。空港の待合ロビーに消えていく彼女の姿を泣く泣く見送りながら、 「小川さんからちゃんと学んだことがあるなら、寂しがっていないで自分のやるべき制作をちゃんとやること!」
と自分に言い聞かせた。小川さんのいた2ヶ月は玉城の神々が私にくれた大きな大きなプレゼントだったように思う。

小川京子個展

ブンダ・アート・スペースでの小川さんの作品。インドネシアの自然素材を編み、
照明を組み込んだあたたかい作品はこちらの作家たちにも新たな素材の可能性を伝えてくれた。


>>HOME

>>Yogyakarta Times

>> Who is Midori?

( C)midori hirota